廃墟ガールの廃ログ

廃墟散歩の備忘録

その44:大衆割烹鉄平跡地【板橋区】

 
午後九時、日曜日。

マフラーに埋めた口から舌打ちが漏れた。右と左を一度ずつ見て、誰にも悟られぬよう、静かに飲みこむ。まばらな降車客には聞こえない距離だったようだ。私の品は保たれた。

ホーム両端に出口のある最寄り駅では、究極の二択を間違えることが大きなロスになる。出て左だったか……休日の非日常が、ルーチンが作った感覚を狂わせていたようだ。バルで飲んだサングリアの瓶に入った、カットされたフルーツが脳裏をかすめた。

今日もなかなか、楽しい一日だった。

南口を出て右だ。見慣れた階段はない。変わりに勾配の緩やかな坂が伸びる。交番、ホテル、と――

「来ちゃった、って言ったら、怒る?」

順調だった軽快なヒールが止まった。

「随分と――早いお迎えで」

目の前に、いやというほど知っている、にやついた口元。飄々と、でも確実に、現れる。

「思ったより、落ち着いてるね」

つまんないの、とでも言いたげな口調。声のトーンは変わらない。ふわついた様子を見せないように、落ち着いて、わざとゆっくりつぶやいてやる。

「何年付き合ってると思ってるの」

先を進む背中がまあね、と揺れる。右を見ると、賽の目のガラス、いくつか歯抜けになっている。茶色と黒。たくさんのメーター。円盤は動いているだろうか。いや、止まっている。止まっている。

「デート?」

背中が回って私の足元をちらと見る。いつもと違うからだろう。

「楽しかった、んだろうね。楽しいと、楽しかった分、つらいよ?」

知っている。

もう私だって大人なのだ。それこそ、何年付き合っているの、だ。

自分本位の笑顔、どんなわがままも、気まぐれも、許してくれる。今の彼は優しい。おいしいお酒だった。夢みたい、嘘みたいだ。そんな世界が広がるほど、目の前の君は不敵に笑うのだ。幸せを噛みしめているほど、黒い影を伸ばして、手をこまねくのだ。

こっちへおいでって。

どんなに嫌でも、行きたくなくても、一切は過ぎていく。布団の中で駄々こねて泣きじゃくったって、気づけば寝こけて朝になる。

――さ。

「帰ろっか」

君を迎え入れる準備はできているよ。

「つまんないの。昔はもっと、いやいや言ってたのに。ずっと日曜日なら良いのにって台詞、何度聞いたかって、感じだったのにね」

「社会人何年やってると思ってんの」

マフラーから白い息を吐き出し、並んで帰る。

日曜日が終わる。

 

 

*基本データ


場所:東京都板橋区(東十条駅南口)
行った日:2017/11/18
廃墟になった日:不明
詳しく:

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*評価


怖さ:★★☆☆☆
廃れさ:★★☆☆☆☆
入りやすさ:☆☆☆☆☆(警戒中)
 

 

*おまけ

 

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日曜の午後あたりから、ゆっくり絶望(月曜日)がやってきます。月曜日働きたくないという文章でした、月曜日働きたくないという以外は大体嘘です、廃墟あまり関係ないです、失礼いたしました。ごめんなさい。